2021/01/06

46.宿直

毎年年末になると思い出すことがある。

その年はクリスマス前から謎の停電が頻発するようになり、営業中にも関わらず突然ブレーカーが落ちるようになった。来客中でも容赦なく店が真っ暗になるので、常に懐中電灯を手元に置いておく始末。

相手が人間なら謝れば済むのだが、海水魚でフィルターが動停止を繰り返すのは受け入れ難いだけでなく、翌日出勤したら暖房が止まっていて水温が急降下なんてのも困る。

とにかく早く手打とうと、電気工事会社を紹介してもらい診断してもらった。

すると、明確な原因は分からないが店内の至る所で小規模な漏電が発生していると。たしかに海水水槽に手を入れるとビリッとする事があり、錆びた照明器具を交換しなきゃいけないなんて思っていたが、予算もないので放置していたのだ。

この機会なので徹底して直してみるかと、漏電の数値を計りながら照明器具やヒーターなどを取り替えてゆくと、数値は問題ないレベルまで下がった。

この後2日ほどは何もなかったのだが、クリスマス明けの27日に再びブレーカーが落ちた。

再び電気屋さんを呼ぶも、これ以上は手探りでやるしかないと、店の一部だけ電気を消したり、ブレーカーを変えたりしたが回復せず、とうとう30日になってしまった。それでも毎日作業に来てくれる電気屋さんに「なぜそこまでやるのか?」と、聞くと。「安心して正月を迎えてほしいから」と。

その職人魂に感銘を受けた私は逆に「ブレーカーが落ちても上げればいいだけなので、続きは年明けにしましょう」と、仕事納めを宣言した。

とは言ったものの、症状は悪化する一方で、ひどい時は1時間毎にブレーカーが落ちる。こんな真冬に一晩停電されたら致命的なダメージになるので、暖房はエアコンではなく灯油のストーブを使うことにした。ただし、火災予防のために店で寝泊まりして安全を確保する!

なんの娯楽もない上に、夜は独特な薄気味悪さを感じる熱帯魚屋で大晦日、そして新年を迎えた頃、ブレーカーが落ちる時の条件が分かってきた。それは強い風が吹くとブレーカーが落ちる、もしくは電灯がチラつく。という事。

さっそく休明けにこの事を伝えると「その原因は外です!」と。今度は電力会社の管轄なので診てもらうと、引き込みの配線がショートしていて、風で電線が揺れると安全確保のためにブレーカーが落ちていた。という事だった。

自分が原因じゃなかったという安堵感、今までの苦労が報われなかった虚無感、さぞ迷惑をかけたと電力会社は謝ってくるだろうなと思っていたら、上司っぽいオヤジが「こういう時は早く呼んでくれなきゃダメでしょ!」と、まさかの逆ギレ!?

あまりの展開に俺と電気代さんはしばらく呆然と立ち尽くした。

結局この電力会社とはこの後も大きな騒動を起こす事になったが、そもそも灯台下暗しを引き起こしたのは店中で漏電を起こさせていた俺が悪いのである。