2020/12/31

42.結婚

1年半の不眠バイトの努力が報われたのか?彼女の両親から結婚の許可がでた。

その日は彼女の実家に行く事になっていたのだが、出発3時間前に「スーツあるの?」と聞かれ、スーツを着ていかなければいけない事を知った。

あるわけねぇじゃん。成人式も行かなかったし、出てたとしてもデブ化してたし、そもそも熱帯魚屋でスーツほど役に立たない服は無い。

親から3万円借り、格安紳士服店で全身コーディネートしてもらった上に「このまま着て帰る」という横暴。そのまま一升瓶を持って彼女の実家に行ったわけだ。

結婚を許してもらえるとは思えなかった。何故ならドライブする車もガソリンも、食事の支払いも全て彼女の財布から。いわゆるヒモというやつだ。そんな最低な男に娘を譲る親なんているわけがない。

緊張のご対面の後に、彼女が席を外した僅かな時間があった。ご両親と三人だけという地獄のようなシチュエーションの中で母上様が優しい口調で聞いてきた「どうして娘の事を良いと思ったの?」と。

仮に厳しく問いただされたら嘘をついたかもしれない。でも、その母の愛情がこもった言葉に対して嘘をつく事はできなかった。だから正直に全てを伝えた、出会ってから10年間ずっとヒモのような状態で支え続けてくれた事。そして今度は俺が一生をかけて恩返しをする番だと。

彼女が部屋に戻って来るとご両親が「良い彼氏で良かったな」と。えっ!?オッケーなの?でも俺まだヒモで、まだ何も実績ないんだけど…。

赤字熱帯魚屋、まさかの結婚。