目的地さえどこを目指して良いかも分からない。とりあえずソレっぽい場所という事で決めたのが房総半島の最南端。
当時は高速道路を使う金なんて無かったので、当然のごとく一般道。夜9時に出れば朝には着くだろうと思っていたのだが…夜明けの時点で高円寺の駅前だった。
そこから必死に千葉県を南下し、ヘトヘトになって着いた時には昼過ぎ。しかも海は潮が満ちて、魚が岩場に取り残されて…なんて様子は微塵もない。
ここまで来てボウズかよ…疲労と後悔、そして絶望が入り混じった感情の中、呆然と太平洋を見つめていた。
ふと、足元の岩場を見ると赤いモノが見えた。ピンポン球ぐらいの丸い物体が無数にくっ付いていた。
「ウメボシイソギンチャクだ!」
着替えも無いのに海に入って夢中で捕った。1時間で50個程のイソギンチャクを手に入れた。
その1か月後。俺達は焼肉屋で厚切りの牛タンを食べながらその時の思い出話をする事になる。もちろん移動費を差し引いた儲けの分で。